Kazuto Hayashida

誰もが扱える歩行者行動シミュレーションシステム

一般的な設計プロセスでは、設計者が頭の中で人間の行動をシミュレートし、設計案を検討そして修正し設計を進めていく。この設計プロセスを踏むことにより、たとえば不特定多数の人間が集まる駅において、平常時の混雑を緩和する駅空間を計画することができる。また、空間を把握していない利用客が大勢集まる複合商業施設において、火災や地震時が起きたとしても安全に避難が可能なハードソフト両面の計画を、避難行動のシミュレーションにより導くことができる。
しかし、設計者個々人の素養の違いによって、シミュレーション結果が変わってしまうという問題がある。また設計案を検討する際に、人間の行動をシミュレートさえせずに設計を推し進めてしまうという場合もあるのが現状である。
そこで、設計者誰しもが、容易に行動のシミュレーションを行うことができる行動シミュレータの構築を目指している。 この行動シミュレータを構築するために、博覧会での回遊行動や、駅における群集行動などを対象とし、空間における行動調査、行動の分析およびモデル化を行ってきた。今後は、これらの行動モデルを搭載することで、CADと連動する行動シミュレータを実現する。

自分の心理状態と人の心理状態の見える化によるスマートビヘイビアの実現

情報により自発的に生活行動を創発し、自立的に生活行動を行うスマートビヘイビアが実現できれば、現代社会が抱える心的な問題を解決するための一助となる。
まず、人間の身体変化とその時の心理との関係を明らかし、身体変化を取得することでその時の心理を推定することを可能とする。また、自分自身や、周囲の人々、また距離的に離れているが親密度が高い人々など、自分自身が属する社会的グループの心理状態の見える化システムを作成する。これは、従来のように空間にセンサを固定したセンサリングではなく、移動体である人間自身にセンサを装着する動的なセンシング(Human ProBe)であるため、自分自身や自身が属する社会的グループ各人の時系列心理変化をリアルタイムに見える化できる。
具体的には、歩行速度、歩行時における身体の加速度と角速度の変化を計測し、これらと心理との関係を明らかにし、歩行者の歩行速度や、加速度と角速度変化により、心理状態を予測するモデルを作成する。これにより、歩行速度や、加速度と角速度変化を外部観察から把握できれば、その時々の心理状態を予測することが可能となる。つまり、生理計測のように人間に大きな負荷をかけずに、そしてリアルタイムに心理状態を把握することができるのである。
本研究の成果が空間に組み込まれれば、人間の心理状態を人間の行動変化から予測し、それによって、その人のその時の心理に合わせて的確なサービスを行うことができる。具体的な例としては、迷っている状態を検出し案内情報をその人に送信するなど、それぞれの人のそれぞれの状態に合わせたサービスの提供が可能となる。

モノへのフィードバック

・人間-環境-ロボット研究
10年ほど前より、複数大学の研究者チームを編成し、人間-環境-ロボット研究会(Human-Environment-Robot、HER研究会)として共同研究を行い、最近では二期にわたり科研費を受給することができた。研究を遂行するとともに、複数の論文など成果を上げている。
集中デスク
昨今では、「小1プロブレム」に代表されるように、子どもたちの心理的な問題がクローズアップされている。そこで、(株)IKUOと共同研究を行い、集中力を育成する机について研究を行った。この成果を用い、(株)イトーキが制作し発売している。
こどもとげんきが育つ家
日常生活を送りながら、子どもが元気になるような建築空間を実現しようというコンセプトで、(株)パナホーム北関東の住宅展示場に「こどもとげんきが育つ家」というモデルハウスが建てられたが、これに対するアイデアの提供を行った。現代の子どもにとって欠けている、「のぼる」、「くぐる」などの基本動作を、日常生活を送りながら行えるような部屋配置や造作などの提案を行った。